ストーリー・テリング:物語の力

マーケティングの世界では、聞き手に伝えたいことを物語で印象付ける手法
「ストーリー・テリング」が、注目を集めています。

でも、「ストーリー・テリング」は単なる一過性のブームではありません。

「ケン君は6つの飴の中から3つを妹にあげました」なんてお話、聞き覚えありませんか?

大昔からどの国にもある「おとぎ話」。最後はお決まりの「教訓」で幕を閉じますよね?

実はあの「聖書」も、キリスト教の価値観が描かれた壮大な「物語」なのです。

全てに「ストーリー・テリング」のテクニックが取り入れられています。

では、「物語で伝える」ことは、なぜ有効なのでしょうか?

単なる情報の羅列と、物語との違いは、一体何でしょう?

simpleshowが、科学的に解説します!

storytelling

◆物語が感情に訴える理由

人間が数字のデータを見たとき、活動する脳の領域は2つです。

しかし、「物語」を見聞きしている時には、味覚、嗅覚、触覚、身体の動きを
つかさどる神経系など、7つもの領域が活動しています。

例えば、映画で崖の上に立っている主人公を観ると、自分が危険なわけではないのにドキドキします。美味しそうに食事をしているシーンを観れば、自分も唾液が出て、お腹が空きます。

つまり「物語」は、感情に訴える力があるのです。

人は日常生活において「喜怒哀楽」の感情が起こります。そして、性欲や食欲などの本能が満たされた時だけでなく、ギャンブルや絶叫マシン、仕事の成功、買い物などにおいて、脳内にドーパミンという神経物質が放出されることで「快楽」を感じます。「ワクワク感」や「ドキドキ感」といった快感物質を生み出すのは、脳の報酬系と呼ばれる仕組みです。

そして、「物語」も、脳の報酬系を活性化します。

小さい頃読んでもらったお気に入りの絵本をずっと鮮明に覚えていたり、サスペンスドラマを見始めたら最後までテレビの前から動けなくなったりするのはこのためです。「物語」は、脳内で快楽物質「ドーパミン」を生み出し、人の感情を高めるのです。

「好き嫌い」などの感情は、脳にある扁桃体が判断しています。脳には、忘れても良い記憶と覚えておくべき記憶を仕分けする海馬という器官がありますが、扁桃体と海馬は隣同士。感情を伴う記憶は、扁桃体が海馬を刺激するため、思い出として脳に強く定着することが様々な研究からわかっています。

「ストーリー・テリング」を活用できれば、より強く、より長く、記憶してもらえるということです。

◆物語が行動を決める

米国の神経学者リード・モンタギュー(1960-)は、コカ・コーラ好きの被験者が、ブランド名を知らずに飲んだ時と、知った上で飲んだ時で、脳内の活動をMRI計測しました。すると、ブランド名を知った上で飲んだグループは、知らずに飲んだグループよりも、「美味しい」と回答する率が高く、更に、脳内では前頭葉が活発に働いていました。前頭葉は、複雑な思考や評価、自己イメージに関係する部位。ペプシが好きな人でも同様の実験を行いましたが、脳に顕著な活動の違いは見つかりませんでした。つまり、コカ・コーラの実験の時は、そのブランドイメージが、「おいしい」と感じさせたことになります。

この実験から、「コカ・コーラの広告メッセージは長年をかけて消費者を感化し、個人の選択に関わる脳の領域に影響を与えたのだ」という結論が導き出されたのです。

では皆さん、コカ・コーラといえば何を思い出しますか?多くの人は、ある時は爽やかに、ある時はセクシーにコカ・コーラを飲む若い男女の「物語」のCMではないでしょうか?

また、米国の神経学者ウィリアム・ケースビア(1969—)とポール・J・ザック(1962—)による研究でも、「物語」が人間の行動に影響を与えることが明らかになっています。

被験者は、病気にかかった2歳の男の子に関する悲しい動画を見るグループと見ないグループに分かれます。

すると、動画を見た人々は、神経伝達物質オキシトシンが脳から分泌され、その血中濃度が高い被験者のほうが、その後、お金を寄付する確率が高くなりました。オキシトシンは「親しみ」や「共感」を司ることで知られるホルモンの一種です。

この実験は、聞き手を「共感」させ、行動に具体的な影響を与える効果が「ストーリー・テリング」にあることを実証しています。

◆マーケティングに物語が必要な理由

ショッピングを例に挙げましょう。

食品でも、洋服でも、携帯電話でもかまいません。「現実(オフライン)」の世界では、製品の手触りはもちろん、店の香り、BGM、照明、そして感じの良い店員など、五感がもたらす感情が、購買を大きく左右します。

しかしオンラインでは、写真と製品説明、無機質な数字とデータ以外、買い手を刺激するものはありません。購入を決める要素が感情に左右されることは、売り手にとっては大きな問題です。つまり、あの手この手で「物語」を伝え、感覚を刺激する必要が出てくるのです。

simpleshowの作品でいうと、JALカードショッピングマイル・プレミアムが良い例です。

 

JALカードのオンラインサイトで公開されているこの作品は、JALカードの初期顧客や潜在顧客を対象にした有料オプションサービスの加入促進を目的としています。

「JALカードユーザーのモリさんは、ショッピングや公共料金など日常生活でJALカードを利用しています。マイルを貯めて旅行に行きたいと思っていますが、少しずつしかマイルが貯まりません。もっと効率よくマイルを貯める方法はないのでしょうか?」

「モリさんは、JALカードショッピングマイル・プレミアムに加入すれば、マイルのたまるスピードが2倍以上になり、特約店で買い物をするとマイルがもっと効率良く貯まることを知って、早速入会。来年にはマイルで念願の沖縄に行けそうです……」

JALブランドに対するブランドイロイヤリティーが既に高いJALカードユーザーであっても、初期顧客の多くが感じている共通の悩みがあり、その代弁者がモリさんです。

2分の動画を見ただけで、感情を刺激された視聴者はモリさんに共感を抱き、自分も同サービスを理解できて、利用していないのがもったいないと考えるようになります。そして、オンライン上の入会画面へと自然に進んでしまうのです。

つまり……

ブランドイメージでも、チャリティーでも、金融サービスでも、複雑なトピックを記憶してもらい、共感させたいなら、人の共感を得る「ストーリー・テリング」ほど有効なものはないのです。

どんなテーマにおいても、「物語」は強力なツールだといえます。

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